
昨年に引き続き、大学院創造理工学部 建築学科と合同で天王洲まちあるきワークショップを実施しました。建築学科の学生や東京都立大学法学部の学生との交流で、柔軟な意見交換ができ非常に充実した研究となりました。
2023年度天王洲街歩きワークショップは、以下のテーマで行いました。
1.移動論(社会学)
2.ベンチ(建築)
3.地図をつくる(デザイン)
4.記憶の跡(都市計画)
5.ギャラリー(美術)
6. パブリックアート(美術)
以上5つのテーマのうち、学生がそれぞれ希望するテーマを選びました。
10月から調査を開始し、複数回に渡り天王洲を訪れフィールドワークを行いました。


1班 移動論の観点から天王洲アイルを見る-観光のまなざしから

1班は、天王洲に滞在する人々を「内側(住民、職員)」「外側(観光客)」・「企業」「行政」の4つに分類し、速度感・スケール感という2つの基準を設けてそれぞれのまなざしの交差を検討した後、マップにまとめ可視化することにしました。
速度感に関しては、人々の訪問、通行と滞留、移動時間の変化に影響を及ぼすことがわかりました。いっぽうスケール感に関しては、速度感・移動時間によって地域時代の規模感も減少するということを発見しました。
研究を通して、まなざしは四つであっても、それらが実際には現場で混在し互いに影響し合っていることを実感しました。そのため、一つのルートを紹介してまなざしや目的を狭めるよりは、より広めて、天王洲の楽しみ方が取捨選択できるようにした方が適切だという考察に辿り着きました。
2班 都市のしつらい いいベンチ/ただのベンチ

2班は、現在の天王洲アイルに求められる新しいスタイルのベンチの提案を目的として調査を行いました。
実際に天王洲アイルに足を運び、街歩きをした上で、ベンチの置かれ方、使われ方の観察や各ベンチの計測を行いました。観察・計測結果を基に、ベンチが多く置かれているエリアを2つ抽出し、各々のエリアに設置されているベンチについて分析を実施しました。
分析結果から、この街における良いベンチと悪いベンチを考察しました。同じエリアでも異なる視点でいくつかの提案を行うことで、天王洲における多くの可能性がある事を提示しました。
また、今回のワークショップを通して、街づくりにおいてベンチは不可欠な存在であることを再認識することができました。
3班 天王洲を表記する実験的な地図を作る

3班は現地の調査を行いながら、天王洲の実験的な地図の作成を行いました。
通常の場所の位置を記した地図とは違い、天王洲における水面やアートなどの視認範囲を独自に地図の要素として落とし込みました。これらは天王洲において人々の視線を惹く「引力」として作用しており、それらの関係を、地図を制作するとともに考察しました。
加えて、多くのベンチの位置も地図上に表記することで、「水辺とパブリックアートが見える範囲」と「街に点在するベンチ」が地図上に共存し、「モノではなく、場所の力を可視化する」地図が完成しました。
4班 まちなみに「記憶の痕跡」を探す

4班は天王洲と天王洲の隣、品川について歴史や記憶の痕跡の調査を行いました。
初回の天王洲まち歩きを実施した後、天王洲と周辺との接続についても見ていこうという方針を決定し、①人と物の軌跡、②水の記憶、③産業の記憶の3テーマに大きく分類して進めました。
最終的には3テーマそれぞれの痕跡が記された地図を作成し、それぞれの分析を行った後、3つの地図を重ね合わせることで全体についての考察をしました。
5班 寺田アートコンプレックスについて-展示の多様性

私たち5班は、天王洲アイルにおけるアートを明らかにすべく、寺田アートコンプレックスの各ギャラリーを自分たちの客観的な目線から調査いたしました。
調査方法としては、2つ行いました。1つ目はカード化による、各ギャラリーの可視化、2つ目は5つの評価項目による統計調査を行いました。後者では、[具象・抽象/海外・日本/平面・立体/年齢/ジャンルの多様さ]という5つの観点でそれぞれのギャラリーを分類し、全てのギャラリーの結果をそれぞれ1つにまとめることで、寺田アートコンプレックスに置けるギャラリーの多様性を一目で捉えられるようなチャートを作成しました。
この結果から、ギャラリーには一貫性が見られませんでした。しかし、むしろ一貫性がなく、多種多様なジャンルの作品が取り扱われている多様性があることが、天王洲アイルのアートであるということを学びました。
6班 天王洲のパブリックアート・建築・デザイン

6班は天王洲アイルについて、パブリックアート・建築・デザインの3点について網羅的な調査を行いました。
それらの果たす機能についての考察を反映させた、新たなアート巡りのルート及びアートマップを独自に作成し、さらに今後の展望として新規作品設置場所についても提案を行いました。
今回建築学部の方と現地でフィールドワークを行い、初めて動線との関係性の中でパブリックアートを考える機会を得られました。居住民の方々がよく通るローカルな抜け道など、これまでにはないアートの設置場所の可能性に気づくことができ、パブリックアートができることについて考えが広がったように思います。
全ての班の5カ月間に及ぶ研究の成果を、11/7の中間発表、11/28の最終発表、3/4の都市と美術研究所第29回研究会にて報告いたしました。

本研究では、人文科学・社会科学・自然科学を連携させた調査・分析を通して、天王洲というまちの多面的な様相を考察しました。計3回の報告会においては、各分野の専門家である教授や有識者の方々からフィードバックを頂いたことで、内容をよりブラッシュアップすることができました。
2023年度天王洲まちあるきワークショップの報告書はこちらからご覧いただけます。
(文責・渕上優衣)