2025年10月28日、早稲田大学會津八一記念博物館で開催されていた企画展「小野竹喬から猪熊弦一郎、李禹煥まで リトグラフで辿る アトリエMMGの33年」を訪れました。
同館は2011年に、1974年に設立されたリトグラフ専門の版画工房「アトリエMMG」の創設者である益田祐作氏より、約300点のリトグラフを受贈しました。本展では、その中から75点の作品を取り上げ、アトリエMMGの活動の軌跡を辿るものです。
複製性や同一性が注目されがちな版画ですが、1950年代以降は美術表現の一つとして「版表現」という言葉が生まれるようになります。こうした時代に生きた現代美術家たちとの協働に際して、工房の刷り師たちは、コンセプトを深く理解する能力が求められていました。
例えば、本展出展作家の李禹煥は、1970年台前半に《点より》や《線より》に代表されるペインティングシリーズで、行為の反復の最中に生じるわずかな差異に着目しました。その後、1980年代に入ると、李は、同一の図像を複数生み出すという版画の手法にも同様のテーマを見出し、自らの作品と接続させるようになります。“裏方”であったはずの自らの行為そのものが作品の本質になるという状況に、刷り師たちは大きく戸惑ったことでしょう。

国際展が隆盛を迎えていく中において、国を超えた活動を展開する作家たちの創作を、いかにして版画工房の活動、そして職人たちの手が支えていたのか、その苦労や重要性が窺える展覧会でした。(文責:土田祥ノ介)