
2023年5月9日、東京国立近代美術館で開催されていた『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』へ訪れました。

明治以降の絵画、彫刻、工芸では68件が重要文化財に指定されています。本展では、そのうち51点が展示されました。なかには、作品の発表当時はその新しい表現が受け入れられず、「問題作」とされたものもあります。それらの作品に対する評価が時代を経て変化し、現在は重要文化財となりました。作品が重要文化財に指定された時期や、同時期に指定された作品などをたどっていくことで、近代日本美術史研究の変遷もうかがえました。
入館前に、早稲田大学大学院美術史コース出身で東京国立近代美術館主任研究員の桝田倫広さんに本展に関するレクチャーをしていただきました。

本展では日本画、洋画、彫刻、工芸の分野ごとに、おおよそ時代順に作品が展示されていました。合わせて、重要文化財全68件が指定された順に示された年表も展示してありました。
日本画の章では、冒頭に全40メートルに及ぶ横山大観の『生々流転』が展示されていました。全部を広げての展示に合わせて、特注で展示ケースを準備したということでした。水が姿形を変え、流転する様子が繊細かつドラマティックに描かれていました。また、今村紫紅『熱国之巻』はコレクション展示に関連作品も展示されており、合わせて鑑賞することでより一層興味深かったです。
洋画の章では「日本で最初の洋画家」と言われる高橋由一『鮭』から始まり、岸田劉生『麗子微笑』、青木繁『わだつみのいろこの宮』などが展示されていました。

彫刻の章では、どれもみな堂々とした姿を見せていました。高村光雲『老猿』は明治時代の作品であるにもかかわらず、重要文化財に指定されたのは1999年と最近のことでした。その理由については作品の評価基準が時代により移り変わっていったことが関連していますが、美術において絶対的な基準はないということを再確認させられました。
工芸品は伝統が継承されていくので巧みな技術が伝わる一方、時代の変化に追いついていく必要もあります。今回展示された7作品はいずれも今から100年以上前に制作されたものですが、表現の新しさと確かな技術で鑑賞者を惹きつけていました。ガラスケース越しでは伝わらない存在感がわかる配置のされ方も相まって、ついつい長居してしまいました。

私、西山が一番面白いと感じた作品は小林古経『髪』です。ゼミでの事前学習で取り上げた作品ということもあり、実物作品を観た時に感じることは多かったです。腰から下に薄緑の布を纏った上裸の女性の長い髪に、青い着物を着た髪の短い女性が櫛を通している様子が描かれています。髪や表情などの繊細な表現や余白がとても印象的でした。
渕上が特に面白いと感じた作品は初代宮川香山作の『褐釉蟹貼付台付鉢』です。岩を思わせるような鉢に蟹が二匹…。なぜ蟹?釉薬の垂れるようなかかり方が、荒波の日本海で生きる蟹を連想させました。明らかに別々の場所にあるべきものたちがさも当たり前に一緒になっているという状況が印象的でした。

大学から電車で数駅という美術館のアクセスの良さに加え、展示作品全てが重要文化財という大変貴重な経験でした。事前学習が作品理解を促進させ、学びの多い見学会となりました。


(文責:西山夏海・渕上優衣)