柳延熹(リュウ・ヨンヒ)スタジオ訪問記

 韓国を代表する金工作家、柳延熹(リュウ・ヨンヒ, 류연희, Ryu Yeunhee, 1962-)のスタジオを、2024年から断続的に訪れる機会を得た。

 柳は淑明女子大学校美術大学(韓国)を卒業後に来日し、東京藝術大学大学院にて鍛金を専攻したのち、漢陽大学(韓国)で博士号を取得。現在に至るまで、およそ40年間にわたり金属工芸による制作活動を展開している。その活動は「21st Silver Triennial International 2025」での最優秀賞受賞や、「LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025」でのファイナリスト選出など、国際的に高い評価を得ている。

 そんな彼女のスタジオは、ソウル市中心部・城北洞の閑静な住宅街に佇む。スタジオには、藝大時代から現在に至るまでの数多くの作品や、丁寧に手入れされた観賞植物が所狭しと並べられ、大きな窓からは緑豊かな庭が見渡せる。その様子は、まるで一流のセノグラファーによって演出された展覧会のようだ。

スタジオに所狭しと並ぶ作品
昌慶宮より南山方面を望む

 柳は、朝鮮王朝五大王宮のひとつ、昌慶宮に隣接する蓮建洞に生まれ、都市の中の豊かな自然と、韓国の伝統的な建築が融合する環境に、幼少期から魅了されていたという。また建築のみならず、伝統家具に見られる造形的特徴や紋様にも興味を持った彼女の作品には、それらがモティーフとして取り入れられている。時には、古来から日常的に用いられてきた銀製スプーンの柄を、作品の素材として用いることもあるという。

 作品の表面に目を移すと、制作の過程で生じた微細な凹凸や、酸化による色調の変化に、極度な修正が施されずに残されていることが分かる。その不均質な様子に、最初は違和感を感じる人もいるそうだが、こうした直感的な手仕事や、自然な変化を重んじる姿勢こそが、作品に素朴で温かい印象を与えているのだろう。

 下の写真は、2025年12月に訪れた際に撮影したものである。冷たく硬質な素材が用いられているにも関わらず、果物は優しく包み込まれているように感じられる。「籠」のモティーフは、彼女が近年最も関心を寄せるもので、「LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025」にも、同様の作品が出品された。

 工業化が著しく進行する現代においてこそ、均質的な造形美に依拠せず、唯一無二の芸術性と実用性を兼ね備えた柳の作品は、人々を魅了し続けるのである。

【文/写真:土田祥ノ介】

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